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SNSアプリを消すとiPhoneの使用時間はどれくらい減るか?

はじめに

デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する

デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する

この本を読んで、自分がSNSを見過ぎており、余暇時間を有意義に使えていないのではないかと疑問を持つようになりました。そこで、この本で提唱されている「SNSアプリを全部消そう」を2020年3月16日から実践してみました。
 ただ、SNSアプリの中には私にとって必要不可欠なものもあります。そこで、TwitterFacebookYoutubeの3つを削除することにしました。この記事では、私がこれら3つのアプリを消すことによって、どれだけ「余暇時間におけるiPhone使用時間の割合」を減らすことができたかを、iPhoneの使用データを用いて検討します。
 結論を先に書くと「余暇時間におけるiPhone使用時間の割合」はSNSアプリ削除前の平均が29.719%、SNSアプリ削除後の平均が20.594%となり、iPhoneの使用時間が減少したことが分かりました。この結果は当然と思われるかもしれませんが、SNSアプリを消してもなお、iPhoneのウェブブラウザからSNSを見られたことを考えると意外性があるのではないでしょうか?

使用する生データについて

この記事では、iPhoneの「設定」から見られる「スクリーンタイム」と、「ヘルスケア」から見られる「睡眠時間」「ウォーキング+ランニングの距離」のデータから変数を作成し、分析を行います。この節では、iPhoneから得られた生データについて説明します。

スクリーンタイム

iPhone、iPad、iPod touch でスクリーンタイムを使う - Apple サポート
スクリーンタイムはiPhoneを見ていた時間*1を測定したものです。計測されたスクリーンタイムは「設定」から見ることができます。今回の分析では使いませんが、アプリごとに何分間画面を見ていたかや、過去4週間分のスクリーンタイムを棒グラフにまとめたもの、過去4週間の1週間毎の平均スクリーンタイムを算出してくれます。
 スクリーンタイムに似た変数として、「設定」の「バッテリー」から見られる「App毎のバッテリー使用状況」というものがあります。これはその名の通り各アプリがどれだけバッテリーを使用したのかを測定したものです。ただ、アプリ毎に時間あたりのバッテリー消費量が違う*2ことが想像できたので今回の分析では使用しませんでした。

睡眠時間

iPhone でベッドタイムを使って睡眠時間を記録する - Apple サポート
睡眠時間は「ヘルスケア」アプリの「睡眠分析」から取得しました。「睡眠分析」では「就寝時間」または、眠っている時間である「睡眠時間」を取得できます。この分析では後者を用います。
 iPhoneがどうやって眠っている時間を測定しているのかは不明です。睡眠時間が欠測している(つまり、睡眠していないことになっている)日もありました。また、起床時間のアラームを設定していると、その時間に起きることを仮定しているようです。つまり、二度寝は計測されないということです。
 これらのことを踏まえると、今回用いる睡眠時間データは実際の睡眠時間よりも短いものになっていることが考えられます。

ウォーキング+ランニングの距離

ウォーキング+ランニングの距離(以下、移動距離)は「ヘルスケア」アプリから取得しました。移動距離をiPhoneがどうやって測定しているのかは不明です。

注目する変数について

余暇時間におけるiPhone使用時間の割合(%)

 この分析では、単純にスクリーンタイムを従属変数とするのではなく、「余暇時間におけるiPhone使用時間の割合」を従属変数とすることにしました。このような方法を取るのは、たとえば「移動距離が長くて、スマホを見る時間が少ない日はスクリーンタイムが少なくなってしまう」同様に「早く寝た日にはスクリーンタイムが少なくなってしまう」ことが考えられたからです。
 ここで余暇時間の算出方法について説明します。余暇時間は次の式で算出しました。

  • 余暇時間=1日(24時間×60分)−睡眠時間(分)-移動時間(移動距離m/分速80m)

移動時間は不動産広告で見られる「駅まで○分」で想定されている、分速80mを使って算出しました。
 iPhoneの使用時間はスクリーンタイムを用いることにしました。あとは、これらの変数を百分率にしてあげればいいので、従属変数:「余暇時間におけるiPhone使用時間の割合」は次式で表されます。

  • 余暇時間におけるiPhone使用時間の割合(%)=iPhoneの使用時間(分)/余暇時間(分)*100

分析

サンプルサイズ

SNSアプリを消した3月16日から遡れるだけ遡ってデータを取得できた2月23日を始点にしました。SNSアプリを消す前のデータが22日分取得できたので、SNSアプリを消した後のデータも22日分記録することにしました。結果として、44日分のデータが分析対象となりました。

データの確認

2020年2月23日〜4月7日(44日分)のiPhoneの使用データ(スクリーンタイム・睡眠時間・移動距離)を分析対象としました。これらのデータから、前述のとおりに「余暇時間におけるiPhone使用時間の割合(%)」を算出しました。日付を横軸・「余暇時間におけるiPhone使用時間の割合」を縦軸に折れ線グラフを描いたものが図1です。f:id:morry0371:20200408114001p:plain
 

平均値の比較

SNSアプリ削除前の「余暇時間におけるiPhone使用時間の割合」の平均は29.719(SD=7.872)、SNSアプリ削除後の割合の平均は20.594(SD=7.637)で、削除後にはiPhoneの使用時間が減ったことが分かりました。これを示したのが図3の棒グラフです。f:id:morry0371:20200408114912p:plain
 

考察

SNSアプリの削除前後で「余暇時間におけるiPhone使用時間の割合」は減少したことが分かりました。これらのデータからSNSアプリの削除の結果、iPhoneの使用時間の減らしたという因果関係を結論づけることができるでしょうか? できるとすれば、SNSアプリ削除前後で、iPhoneの使用時間を減少させる別の要因がなかったことが重要になります。
 私は6月に試験を控えています。「3月16日以降は勉強の追い込みで勉強時間が伸び、iPhoneの使用時間が減った」という別の説明可能性について検討したいと思います。もし、この説明が正しいとすれば「余暇時間におけるiPhone使用時間の割合」は時間の経過とともに減少トレンドになると考えられます。図1を確認すると、3月16日前後でiPhoneの使用時間が減っていますが、前後いずれの期間においても減少トレンドにはなっていないことが分かります。つまり、「3月16日以降は勉強の追い込みで勉強時間が伸び、iPhoneの使用時間が減った」という説明は妥当そうではありません。
 最後に、今回の分析の限界について述べます。今回のデータはすべて私のiPhoneから得られたものです。したがって、たとえばあなたがSNSアプリを削除したからといって、iPhoneの使用時間が減少するかは明らかではありません。私以外の人にも当てはまるような、もっと一般的な効果を調べるためには、複数人をランダムサンプリングで選んで、今回と同じ手続きでデータを集める必要があります。

反省

今回分析に用いたデータは時系列データと呼ばれるもので、ある日の使用率の割合が前日の使用率の割合に似ている(自己相関がある)、という特性がありました。このような場合、SNSアプリ削除の効果を調べるためにはt検定は不適切で、ARIMAXモデルやCausal Impactといった時系列データを分析するための専用のツールが必要になります。ARIMAXモデルやCausal Impactは私の数学的知識が不足しているため、適用を見送りました。試験が終わったら、数学の勉強をして、これらのモデルを使ってデータの再分析をやりたいと思います。

終わりに

『デジタル・ミニマリスト』を読んで、余暇時間をもっと有効活用したいと思えるようになりました。iPhoneを使わないことによって浮いた時間を、今回のブログを書くために使ったり、R・統計学の勉強をしたり*3、小説を読むことに使えるようになりました。
 ネットには「スマホの使用時間を減らしてみた」という記事がいくつかあります。しかし、今回の分析のように、スマホの使用時間を測定し、どのような工夫がスマホの使用時間を減らすのかについて、定量的な効果を推定した記事は見当たりません。スマホの使用時間データは簡単に取得できるので、データに基づいた記事が増えてくれるのを期待しています。
 今回の分析結果は、私自身のデータしか用いていないので、他の誰かに当てはまるかは確かではありません。私と同じように、スマホの使用時間が長すぎて余暇時間をうまく活用できていないと感じている人は、ぜひスマホの使用時間データを使って、同様の分析をしてみてください。

*1:これがどのように測定されているのかは、AppleのHPに書いてありませんでした。バックライトが灯いている時間を測定したものだろうとは思うのですが、詳細は不明です。

*2:たとえば、基本的にバックライトしか使っていないKindleアプリよりも、Youtubeアプリの方が時間あたりのバッテリー消費量が多いと思われます。

*3:プログラミング言語の勉強は『デジタル・ミニマリスト』では浮いた時間に充てる趣味として推奨されていません。